それは、ある日突然やってきました。最初は、舌の先が少しピリピリする程度の、ごくわずかな違和感でした。しかし、その違和感は日を追うごとに強くなり、数週間後には、舌全体がまるで火傷をしたかのように、常にヒリヒリと痛むようになっていました。熱いものや辛いものを食べたわけでもないのに、舌が燃えているような感覚。食事の味もよくわからなくなり、何を食べても美味しく感じられません。会話をするのも、舌の痛みが気になって億劫になりました。鏡で舌を見ても、特に赤くなっていたり、ブツブツができていたりするわけではありません。見た目に異常がないだけに、周りの人にはこのつらさを理解してもらえず、「気のせいじゃないの?」と言われることさえありました。不安に駆られた私は、まず内科を受診しました。血液検査をしましたが、特に異常は見つかりません。次に耳鼻咽喉科に行きましたが、やはり原因は不明。最後にたどり着いたのが、大学病院の口腔外科でした。そこで、様々な検査と問診を重ねた結果、下された診断は「バーニングマウス症候群」という、私にとっては聞き慣れない病名でした。見た目には異常がないのに、神経の伝達異常などによって、脳が「痛い」と誤作動を起こしている状態だということでした。特効薬はないと聞き、一時は絶望的な気持ちになりました。しかし、医師は、この病気はストレスや不安によって悪化する傾向があることを教えてくれました。そして、まずは痛みを和らげるための薬物療法と並行して、生活習慣を見直すことを提案してくれたのです。私は、処方された薬を服用すると共に、意識的にリラックスする時間を作るようにしました。ヨガを始め、寝る前にはアロマを焚き、ゆっくりと入浴する。食事も、刺激物を避け、栄養バランスを考えたものに変えました。すぐには効果は現れませんでしたが、数ヶ月が経つ頃、あれほど私を苦しめていたヒリヒリとした痛みが、少しずつ和らいでいることに気づきました。完治には至っていませんが、今では痛みと上手に付き合いながら、日常生活を送ることができています。この経験を通して、心と体の繋がり、そして諦めずに原因を探し続けることの重要性を、身をもって学びました。
私が経験した舌のヒリヒリ地獄とその克服