長年使っている入れ歯(義歯)が、口の中に痛くないしこりを作る原因となっていることがあります。特に、部分入れ歯のバネ(クラスプ)が当たる部分や、総入れ歯の縁が接する歯茎や頬の粘膜に、しこりや出来物が見られる場合は、入れ歯による慢性的な刺激が関係している可能性が高いです。入れ歯が原因でできるしこりの代表的なものに、「義歯性線維腫(ぎしせいせんいしゅ)」や「義歯性口内炎」があります。これらは、合わなくなった入れ歯が、粘膜の同じ場所を常に圧迫したり、こすったりし続けることで起こります。体は、その慢性的な刺激から自分を守ろうとして、反応性に組織を増殖させ、硬いしこりや、ヒダのような盛り上がりを作ってしまうのです。これを「過形成」と呼びます。できたしこり自体には、痛みがないことがほとんどです。そのため、患者さん自身は、しこりができていることに気づかず、食事の際に少し邪魔に感じたり、歯科医師に指摘されて初めて知ったりするケースも少なくありません。痛みがないからといって、これを放置するのは良くありません。しこりが大きくなると、入れ歯がさらに不安定になり、食べ物が挟まりやすくなって、不衛生な状態になります。また、常に刺激が加わり続けることで、しこりの表面が傷つき、潰瘍ができて痛みを伴うこともあります。さらに、極めて稀ではありますが、長期間にわたる慢性的な刺激が、がんの発生リスクを高める可能性も指摘されています。もし、入れ歯を使っているあなたの口の中に、痛くないしこりや盛り上がりを見つけたら、それは「入れ歯が合わなくなっていますよ」という体からのサインです。すぐに歯科医院を受診し、入れ歯の調整や作り直しをしてもらいましょう。原因となっている刺激を取り除くことで、小さなものであれば自然に治まることもあります。大きくなってしまったしこりは、入れ歯の調整と合わせて、外科的に切除する必要があります。大切なのは、入れ歯を快適に使い続けるために、そして口の健康を守るために、定期的に歯科医院でチェックを受けることです。