「口がネバネバする」と感じる時、ほぼ同時に「自分の口は臭いのではないか」という不安に襲われるのではないでしょうか。その感覚は、残念ながら的を射ています。口のネバネバと口臭は、同じ原因から生じる、切っても切れない関係にあるのです。口臭の主な原因物質は、「揮発性硫黄化合物(VSC)」と呼ばれるガスです。これは、卵が腐ったような臭い(硫化水素)や、生ゴミのような臭い(メチルメルカプタン)、野菜が腐ったような臭い(ジメチルサルファイド)などが混ざり合ったもので、非常に強い悪臭を放ちます。そして、この悪臭ガスを産生するのが、口の中に潜む「嫌気性菌」という種類の細菌です。嫌気性菌は、酸素を嫌う性質を持ち、歯周ポケットの奥深くや、舌の表面に分厚く付着した舌苔の中などに潜んでいます。彼らは、剥がれ落ちた粘膜の細胞や、食べかすに含まれるタンパク質を分解する過程で、揮発性硫黄化合物を大量に発生させるのです。ここで、口のネバネバがどう関係してくるのでしょうか。口がネバネバしている状態は、唾液の分泌が減少し、その自浄作用が低下しているサインです。サラサラとした唾液が十分に流れていれば、細菌やそのエサとなるタンパク質は洗い流されます。しかし、唾液が少なくネバネバしていると、これらの汚れが口の中に停滞し、嫌気性菌にとっては、エサが豊富で活動しやすい絶好の環境となります。つまり、「口のネバネバ」は、「口臭の原因菌が繁殖している」ことの証拠なのです。特に、歯周病が進行している場合、歯周ポケットの中で繁殖した歯周病菌(これも嫌気性菌の一種です)が、強烈なメチルメルカプタンを産生するため、特有の強い口臭が発生します。口のネバネバを解消することは、そのまま口臭対策に直結します。丁寧な歯磨きや舌の清掃で細菌の数を減らし、唾液の分泌を促して口の中の自浄作用を高めること。それが、不快なネバつきと口臭の両方を根本から断ち切るための、最も確実な方法なのです。
口のネバネバと口臭。切っても切れない関係