特に歯周病などの病気があるわけでもないのに、口の中が常にネバネバする。そんな症状に悩まされている場合、その原因は「ストレス」にあるかもしれません。心と口の状態は、一見無関係のようですが、実は「自律神経」という見えない糸で深く結びついています。自律神経は、私たちの意思とは関係なく、呼吸や心拍、体温、そして消化器の働きなどをコントロールしている、生命維持に不可欠な神経です。この自律神経には、体を活動的にする「交感神経」と、リラックスさせる「副交感神経」の二種類があり、両者がバランスを取りながら働いています。そして、唾液の分泌も、この自律神経によってコントロールされているのです。私たちがリラックスしている時や、食事を楽しんでいる時には、「副交感神経」が優位に働きます。すると、唾液腺からは、水分が多くサラサラとした質の良い唾液(漿液性唾液)がたっぷりと分泌されます。このサラサラ唾液は、口の中の汚れを洗い流し、細菌の繁殖を抑える重要な役割を担っています。一方で、仕事で緊張している時や、強いストレスを感じている時、あるいはスポーツをしている時など、体が興奮状態にある時には、「交感神経」が優位になります。すると、今度は水分が少なく、ムチンという粘性タンパク質を多く含む、ネバネバとした質の悪い唾液(粘液性唾液)が少量分泌されます。これは、緊急時に喉の渇きを最小限に抑えたり、喉を保護したりするための体の防御反応です。現代社会は、常にストレスに晒されています。慢性的なストレスや疲労、不規則な生活によって、自律神経のバランスが乱れ、常に交感神経が優位な状態が続くと、口の中は常にネバネバとした不快な状態になってしまいます。口のネバつきは、あなたの心が「少し休んで」と発しているサインなのかもしれません。意識的にリラックスする時間を作ったり、十分な睡眠をとったりすることが、不快な症状を改善する第一歩となるのです。