「研磨剤入りの歯磨き粉は歯を削るから、使わない方が良い」。そんな話を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。確かに「研磨」という言葉には、物を削り取るイメージが伴うため、大切な歯のエナメル質まで傷つけてしまうのではないかと心配になるのも無理はありません。この噂は、半分は正しく、半分は誤解を含んでいます。まず、市販されている日本の歯磨き粉に含まれる研磨剤は、国際的な基準(ISO規格)によって、歯のエナメル質や象牙質を傷つけない範囲の粒子サイズや配合量が厳しく定められています。そのため、一般的な製品を、正しいブラッシング方法で使っている限り、過度に歯が削れてしまう心配はほとんどありません。問題となるのは、「使い方」と「歯の状態」です。もし、硬い歯ブラシを使い、強い力でゴシゴシと横磨きするような間違ったブラッシングを続けていた場合、研磨剤の働きが相まって、歯の表面が摩耗してしまうリスクは高まります。特に、歯と歯茎の境目はエナメル質が薄いため、摩耗が起こりやすい場所です。歯が削れて内側の象牙質が露出すると、冷たいものがしみる「知覚過敏」の症状を引き起こすことがあります。また、歯周病などで歯茎が下がり、もともと柔らかい象牙質が露出している人が研磨力の強い歯磨き粉を使うと、症状を悪化させたり、象牙質の摩耗を加速させたりする可能性があります。つまり、研磨剤そのものが絶対的な悪なのではなく、「研磨剤の粒子」と「ブラッシングの物理的な力」が合わさることで、歯を傷つけるリスクが生まれるのです。噂の真相は、研磨剤という成分単体の問題ではなく、それを使う私たちのケア方法に大きく依存する、ということです。歯を傷つけないためには、研磨剤の有無だけにこだわるのではなく、鉛筆を持つような軽い力で、歯ブラシを細かく動かすという、基本的なブラッシング技術を見直すことが何よりも重要なのです。