口の中が常に乾いて、ネバネバする。そして、まるで火傷をしたかのように、粘膜がヒリヒリと痛む。この二つの症状が同時に現れている場合、その根本的な原因は「ドライマウス(口腔乾燥症)」である可能性が非常に高いです。ドライマウスとは、唾液の分泌量が減少したり、唾液の質が変化したりすることで、口の中が乾燥する状態を指します。唾液は、単に口を潤しているだけではありません。食べかすや細菌を洗い流す「自浄作用」、細菌の増殖を抑える「抗菌作用」、そして何より、デリケートな口の粘膜をコーティングして、外部の刺激から守る「粘膜保護作用」という、非常に重要な役割を担っています。しかし、ドライマウスによって唾液の量が減ると、この粘膜保護作用が著しく低下してしまいます。潤いのバリアを失った粘膜は、いわば鎧を脱いだ兵士のように、非常に無防備で傷つきやすい状態になります。この状態で、普段なら何でもないような刺激、例えば、食事の際の食べ物との摩擦、歯ブラシの接触、あるいは香辛料や酸味のある食べ物などが加わると、それが過剰な刺激となって、ヒリヒリ、ピリピリとした灼けるような痛み(灼熱感)として感じられてしまうのです。また、乾燥した粘膜は、細菌や真菌(カビの一種であるカンジダ菌など)が繁殖しやすくなるため、二次的な感染による炎症を起こし、さらに痛みを増悪させることもあります。ドライマウスの原因は、加齢による唾液腺機能の低下、ストレスによる自律神経の乱れ、口呼吸の習慣、そして降圧薬や抗ヒスタミン薬、抗うつ薬といった薬の副作用など、多岐にわたります。もし、口のヒリヒリ感と共に、乾きやネバつき、あるいは話しにくさや食べ物の飲み込みにくさを感じているなら、まずはドライマウスを疑い、歯科や口腔外科を受診することをお勧めします。保湿ケアや唾液分泌を促す方法、そして原因となっている病気の治療など、適切な対策を講じることで、つらい灼熱感から解放される道筋が見えてくるはずです。
ドライマウスが引き起こす、口の中の灼けるような痛み