日本では、特に若い女性の八重歯に対して「可愛い」「キュート」「愛嬌がある」といったポジティブなイメージが持たれることがあります。アイドルやタレントが八重歯をチャームポイントとして活躍する姿も珍しくなく、どこか幼さやあどけなさを感じさせる要素として、好意的に受け止められる文化が根付いています。漫画やアニメのキャラクターにおいても、八重歯は元気で少しやんちゃな個性を表現する記号として描かれることが多く、私たちは無意識のうちに八重歯に対して親しみやすい印象を刷り込まれているのかもしれません。しかし、この価値観は世界的に見れば非常に特殊なものです。欧米をはじめとする多くの国では、八重歯は決してポジティブな印象を持たれません。むしろ、歯並びの悪さの象徴として、非常にネガティブに捉えられるのが一般的です。整然と並んだ白い歯が、自己管理能力の高さや健康、知性、さらには社会的地位の高さを示すステータスと見なされる文化圏において、八重歯は「手入れが行き届いていない」「不潔」「育ちが良くない」といった印象を与えかねません。特に、犬歯が尖って飛び出している様子は「ドラキュラの歯(Vampire teeth)」と揶揄されることもあり、美的感覚からは程遠いものとして認識されています。グローバル化が進む現代において、海外の人々と接する機会が増えれば、この価値観のギャップに直面することも少なくないでしょう。近年では、日本国内でも歯の健康や審美に対する意識が高まり、八重歯をコンプレックスと感じて矯正治療を希望する人が増えています。かつて「可愛い」の代名詞だった八重歯も、今や個人の価値観やライフスタイルによって、その評価が大きく分かれる時代になっていると言えるでしょう。