子供がグラグラの歯を気にして「痛い、怖い」と訴える時、その痛みの半分以上は「恐怖心」によって増幅されたものであることがよくあります。人間の脳は、何かに集中している時やリラックスしている時には痛みを感じにくくなるという性質を持っています。つまり、親が巧みな心理テクニックを使って子供の注意を逸らし、心を別の場所に向けることができれば、物理的な処置を変えずとも「痛くない抜歯」を実現することができるのです。ここでは、子供の心に魔法をかけるようなコミュニケーション術を紹介します。まず基本となるのは、親自身が絶対に不安な顔を見せないことです。親が眉をひそめて「痛くないかな?大丈夫かな?」と心配そうにしていると、その緊張は鏡のように子供に伝染します。「もうすぐ大人の歯に会えるね!すごいね!」と、歯が抜けることをポジティブなお祝い事として演出しましょう。明るく、自信に満ちた声かけは、子供に「これは怖いことではなく、良いことなんだ」という安心感を与えます。抜ける前から「歯の妖精さんが来てくれるかもね」といったファンタジーの要素を取り入れ、抜けた後の楽しみに意識を向けさせるのも非常に効果的です。実際の抜歯の瞬間には、古典的ですが「注意散漫法」が威力を発揮します。テレビで好きなアニメが盛り上がっている瞬間や、面白い動画を見せている最中は、感覚の鋭敏さが視覚や聴覚に集中しています。その隙を狙って、サッと処置を済ませてしまうのです。また、「数を数える」というのも単純ながら有効です。「10数える間に見せてね」と言ってカウントダウンを始めると、子供は数字に意識を向けます。そして「10」になる前、例えば「7」や「8」のタイミングで不意に抜いてしまうのです。予想していたタイミングとズレることで、身構える隙を与えずに完了させることができます。さらに、「咳払い」や「大声」を利用する方法もあります。「せーの!」で一緒に大きな声を出させたり、わざと「ゴホッ!」と咳をさせたりする瞬間に力を入れると、筋肉の緊張が一瞬解け、痛みを感じにくくなります。これはスポーツ選手がインパクトの瞬間に声を出すのと似た原理で、神経の伝達を一瞬ジャミングするような効果があります。また、痛みという感覚を「別の感覚」で上書きする方法も試す価値があります。例えば、抜くのと同時に足の裏をくすぐったり、手のひらをギュッと握ったりして、意識を歯から遠い場所に飛ばすのです。そして何より大切なのは、抜けた直後のリアクションです。子供が「痛い!」と言い出す前に、間髪入れずに「すごい!抜けたよ!見て、こんなに小さい歯だよ!」と驚きと称賛の声を浴びせます。痛みよりも驚きや達成感が上回るように感情を誘導するのです。鏡を見せて「お兄ちゃん(お姉ちゃん)の顔になったね」と褒めちぎることで、痛みは勲章へと変わります。もし泣いてしまっても、「痛かったね」と同調しすぎず、「頑張ったね、強いね」と勇気を称える言葉をかけてあげましょう。
子供の気を紛らわせて痛みを忘れさせる心理テクニック