インターネットで「しゃくれ 治す」と検索すると、数えきれないほどの「自力で治す方法」がヒットします。割り箸を噛むトレーニング、下顎を押し込むマッサージ、顔の筋肉を鍛える体操など、手軽に試せる情報が溢れています。手術や高額な矯正治療には手が出しにくいけれど、コンプレックスはどうにかしたいと願う人にとって、これらは魔法のような解決策に見えるかもしれません。しかし、医学的な視点から見ると、これらの情報の多くは誤解を含んでいたり、あるいは過度な期待を持たせるものであったりします。ここでは、自力ケアで何ができて、何ができないのか、その真実について切り込んでいきます。まず、残酷な現実からお伝えしなければなりません。もしあなたのしゃくれが、下顎の骨が過剰に成長したことによる「骨格性」のものである場合、いかなるマッサージやトレーニングを行っても、骨の長さや大きさを小さくすることは物理的に不可能です。成長期を過ぎた大人の骨は、外からの力で形を変えることはありません。「毎日顎を押していたら引っ込んだ」という体験談を見かけることがありますが、これは骨が縮んだのではなく、顎関節の位置が一時的に後ろに下がったか、あるいは周囲のむくみが取れてフェイスラインがすっきりしたことで、視覚的に引っ込んで見えているだけの可能性が高いです。骨格そのものを変えるには、外科手術以外に方法はないということを、まずは冷静に受け止める必要があります。では、自力ケアは全く無意味なのかというと、そうとも言い切れません。効果が期待できるのは、「筋肉の凝り」や「姿勢の悪さ」が原因で、本来の位置よりも顎が前に出て見えているケースです。例えば、猫背で首が前に出ている姿勢(ストレートネック)の人は、構造上、下顎が前に出やすくなります。また、食いしばりや噛み締め癖によって咬筋や翼突筋といった咀嚼筋が過度に緊張していると、顎関節がスムーズに動かず、下顎が前方偏位した状態で固まっていることがあります。このような場合、首や肩、顔周りのストレッチを行ったり、正しい姿勢を意識したりすることで、顎が本来あるべき正しい位置(後ろの位置)に戻り、しゃくれ感が「軽減」することは十分にあり得ます。また、舌のトレーニングも有効な手段の一つです。受け口の人の多くは、舌の先端が下の前歯の裏側に当たっている「低位舌」の状態にあります。この舌の圧力は意外に強く、常に下顎を前へと押し出す力として働いてしまいます。意識して舌先を上顎のスポット(上の前歯の少し後ろ)につける習慣をつけることで、下顎への不要な圧力を減らし、これ以上の悪化を防ぐという意味での「治す(悪化させない)」効果は期待できます。これはMFT(口腔筋機能療法)と呼ばれる医学的根拠のあるトレーニングの一種でもあります。
自力でしゃくれを治すトレーニングの嘘と真実