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外科手術で骨格から治すしゃくれ治療の全貌
「私のしゃくれは、もう矯正だけでは治らないと言われた」。そんな重度の骨格性下顎前突症の方に残された、しかし最も確実で劇的な変化をもたらす選択肢が「外科矯正手術」です。これは、矯正治療と顎の骨を切る手術(骨切り術)を組み合わせて行う治療法で、単に歯並びを整えるだけでなく、顔の骨格バランスそのものを根本から作り変えるアプローチです。顔貌のコンプレックスを解消する最終手段とも言えるこの治療には、どのようなプロセスと効果があるのでしょうか。一般的に行われる手術法は「下顎枝矢状分割術(SSRO)」と呼ばれるものです。これは、下の奥歯の後ろあたりで下顎の骨を左右に分割し、歯が並んでいる側の骨全体を後ろにスライドさせて固定するという術式です。骨を物理的に後退させるため、突き出ていた下顎が引っ込み、噛み合わせとともに顔の輪郭が劇的に改善します。場合によっては、上顎の骨を切って前に出す「ルフォーI型骨切り術」を同時に行う(上下顎同時移動術)こともあります。これにより、中顔面の陥没感を解消し、より立体的でバランスの取れた美しい横顔を形成することが可能になります。この治療の最大のメリットは、何と言ってもその「変化量」です。数ミリ単位ではなく、センチ単位で顎の位置を動かすことができるため、長く突き出た顎が短くなり、面長だった顔の印象が小さく整います。「今までどうしても閉じなかった口が自然に閉じるようになった」「横顔を人に見られるのが怖くなくなった」といった、人生が変わるレベルの喜びを感じる患者さんが多いのが特徴です。また、骨格のズレが解消されることで、顎関節への負担が減り、咀嚼機能や発音機能が向上するという健康面でのメリットも計り知れません。しかし、大きなリターンには相応のリスクと負担が伴います。手術は全身麻酔下で行われ、通常1週間から2週間程度の入院が必要です。術後は顔が大きく腫れ、食事が流動食になるなど、日常生活に戻るまでに一定のダウンタイム(回復期間)を要します。また、下唇や顎の皮膚に感覚麻痺(痺れ)が残るリスクもゼロではありません。多くの場合は時間とともに回復しますが、稀に永続的な痺れが残ることもあります。さらに、手術の前後に数年単位での矯正治療(術前矯正・術後矯正)が必須となるため、トータルの治療期間は3年〜5年と長期戦になります。費用面については、朗報があります。単なる美容目的ではなく、「顎変形症」という診断名がつけば、この外科矯正治療には健康保険が適用されます。さらに「高額療養費制度」を利用すれば、手術費用の自己負担額を大幅に抑えることが可能です。一般的に数百万円かかるとされる自費の美容整形とは異なり、機能的な改善を目的とした医療として認められているからです。ただし、保険適用を受けるためには、厚生労働省が指定した「自立支援医療機関(育成医療・更生医療)」や「顎口腔機能診断施設」の認定を受けた医療機関で治療を行う必要があります。